漢方薬が有効とされる脳神経外科領域の病気について
日本脳神経外科漢方医学会で発表された研究の中で頭痛と関係する内容の一部を紹介いたします。
近年では頭痛だけではなく、頭部外傷や脳外科手術後にも漢方薬を一緒に飲んで治療を行うことがあります。以前よりもよく使用されるようになった漢方薬についての最新情報の一部をご紹介いたします。
緊張型頭痛、片頭痛に対する漢方薬の有効性:葛根湯、呉茱萸湯、五苓散
脳外科漢方学会の機関紙で報告された研究内容として、東北大学のグループによると緊張型頭痛や片頭痛に対する漢方薬の効果を評価した論文が発表されていました。対象となった患者さんはNSAIDsやトリプタン系などの頭痛治療に効果がある西洋医学の薬を希望されず漢方薬による治療を選んだ人で、投与された漢方薬は緊張型頭痛には葛根湯、片頭痛には呉茱萸湯、天気に関係するまたは水毒を伴う片頭痛には五苓散とのことです。その後これらの漢方薬を処方して1週間後の頭痛の状態を評価したところ、それぞれで90%の人に有効であったとのことでした。
漢方薬を使用することで薬の飲み過ぎを予防することが期待できる一方で、投与後1週間での評価であることから期間が短いためにその後も継続して効果があるのかどうかなどが知りたいと心でもあります。ただし、治療薬の選択肢の一つとしては考慮できる点が良かったと思いますので、外来診療でも勧めてみたいと考えております。
群発頭痛に対する抑肝散
群発頭痛の3症例に対して抑肝散を投与したところ有効であったとの報告がらいむらクリニックの來村先生からありました。3症例とまだ少ないのですが、頭痛が始まってから1週間くらい経過したところで抑肝散の投与を開始したところ2週間程度で頭痛が改善したとのことです。以前は1-2か月程度頭痛は続いていたのが短縮され改善が得られたという報告でした。
ここで群発頭痛とはどういった頭痛かというと、眼窩周囲を中心に激しい痛みが突然起こり、このような頭痛が数週間から数か月続いていくのが特徴です。頭痛が起こる時間帯も夜間・就寝中が多くて頭痛の持続時間も15分から180分間とされています。このために頭痛が出ているときに病院、特に頭痛専門医にかかるのが難しく診断に至るまで時間がかかってしまうことが多いです。
治療としては痛みが発生している期間にスマトリプタンが有効で、さらに痛みの発生する時期に合わせて予防薬としてベラパミルの内服を行ったりもしています。ただし、他の病気に罹っていたり、脳梗塞などの病気の既往があったりするとこれらの薬が使えない人もいるため、そのような人に対する治療方法は限定的で困難です。今回の報告のような漢方薬が有効であれば、新たな治療手段として洗濯できるのではないかと思います。
一次性頭痛に対する加味逍遙散
加味逍遙散とは月経時の不調など婦人科疾患の時によく使用されている漢方薬の一つです。主な症状としては更年期障害や不定愁訴、肩こり、精神神経症状とされています。また、頭痛診療のガイドラインでも取り上げられておりません。では、この漢方薬が頭痛にも有効であるというのはどういったことでしょうか。
水戸協同病院の柴田先生によると一次性頭痛との診断で加味逍遥散を投与した59症例のうち約3分の2の人で有効であったとのことです。加味逍遥散は通常特効薬のあまりない緊張型頭痛や頚椎症に処方されることがあり、有効率はとても高いということです。さらには薬物乱用頭痛の時にも有効であるとされ、結論としでは一次性頭痛の全般に効くということではなく、特に有効であった症状が提示されています。それは頭痛の原因に不安や神経症がある緊張型頭痛、頚椎症、薬物乱用頭痛の60歳以上の女性ということでした。処方の参考にしてみたいと思います。
五苓散の頭痛に対する効果
今年の学会発表のなかでも五苓散の有効性は良く報告されており、気象変化に伴う頭痛への有効性といった発表など、一般的に天気に関係する頭痛の場合には使用されてきていると感じています。
五苓散は身体の水分を調整する漢方薬として知られており、アクアポリン4受容体を介した薬理作用が示されているものです。アクアポリンとは体内の水分調整に関係する受容体なのですが、この働きによって余計な水分を取り除く作用があるとされます。
難治性慢性頭痛に対する釣藤散
慢性頭痛とは月に15日以上の頭痛が3か月を超えて起こる頭痛でなかなか治りにくい頭痛です。多くの場合、すでにいろいろな薬での治療を経験されていて、それでも頭痛がおさまらない状態です。昨年より抗CGRP関連抗体薬の投与が可能となり、これによる有効性も言われていますが完全に治まることが出来るかはいまだに確実ではありません。そのような中で、漢方薬との組み合わせの治療の発表がいくつかありました。
釣藤散という頭痛に有効な漢方薬についての報告や西洋医学の薬との組み合わせ出治療を行うという報告がありました。
いかがでしたでしょうか。
漢方薬は西洋医学の薬とは違った観点から使用する必要があり、種類も様々なものがあることからひとくくりにすることが出来ないものであります。
西洋医学の薬とは違って、複数の症状に対して一つの処方で済むことも多く、薬をたくさん飲んでいる方にはあまり追加の負担が少なくてする特徴があります。
ただし、味が独特であることや顆粒状・粉の薬を飲むのが苦手な方にとっては飲み続けなくてはならないときに続けにくいという問題もあります。
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